黄帝内経と同じくらい、たびたび名前が登場する「神農本草経」。
「しんのうほんぞうきょう」と読みます。
こちらは、薬学書でやはり中国最古といわれます。
書物として、1~2世紀頃に編纂されたと考えられています。
後漢から三国時代。戦乱の続く時代です。
残念ながら散逸してしまい、西暦500年頃にまとめられたものがあり、それを素に復元したものが、今に伝わるものです。
神農さんの薬学書という書名ですが、神農さんは、黄帝よりさらに古い4千年~5千年前の中国古代神話上の帝王。
農耕の神様であり医薬の神様とされています。
体は人、頭は牛だったとか、頭と四肢以外は透明で内臓が透けて見えたとか、逸話が伝わっています。
絵や彫刻ではしばしば角の生えている姿であらわされます。
神農さんは、人々に種をまき、作物を育てることを教え、身近な草木の薬効を調べるために自らなめて、何度も中毒をおこしたそうです。
この書物には、365種類の薬物が記されています。
ほとんどが植物で、少し動物、鉱物があります。
365種類の薬物は、上品、中品、下品に分けられ、それぞれ「じょうほん」「ちゅうほん」「げほん」と読みます。
上品は、120種。
長期に服用が可能なもので、元気を増す、不老長寿の薬です。
中品は、120種。
毒にもなりうる薬で、滋養強壮、虚弱、病気予防に使います。
下品は、125種。
毒が強く長期服用できません。治病薬です。
神農本草経では、薬は日々の元気を維持するものをよしとし、治療に使うものを下位においていたことがよくわかります。
ところで、黄帝内経には、「上工(良い医者)は未病を治す」とあります。
病気がはっきりと表れる前の段階、病気の芽のうちに治すには中品の薬を使うことになります。とすると、未病とは、病気の芽のことではないようです。
未病とは全く病気ではないときのこと。
本当の良い医者とは、病気の芽すらないときに、その人の体質から罹りやすい病気を予測して、病気にならないようにするための日常の養生薬(=上品の薬)を使って、健康なからだを保つようにしてくれる医者ということでしょうか。
健康な日々を過ごすためには、自分の体質や嗜好の傾向をはじめとする生活習慣をよく見つめて養生することが大切だということは、21世紀に生きる私たちへのメッセージとも受け取れますね。